こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
緊急事態宣言以降、自宅等でのテレワークを導入する企業が増加しました。
そこで話題となったのがハンコ押印のための出社、そしてハンコの廃止でした。
ハンコといえば、学校でもよく使われているものです。もし学校でもハンコが廃止になったら、どんな影響があるのでしょうか?
テレワークとハンコ廃止
《ITmedia ビジネスオンライン》の5月20日の記事です。
書類の整理や押印作業のために、出社せざるを得ない機会があるという人が多いようです。
中小法人を中心にクラウド会計ソフトを提供するfreee社の調査によると、「テレワーク中に出社しなければならない」と回答した人は76.7%、その理由については「取引先から送られてくる書類の確認・整理作業」が38.3%、「契約書の押印作業」が22.2%。調査の対象である比較的小規模の事業者や内勤事務職などはまさにテレワークを導入しやすい形態であるにもかかわらず、紙やハンコの押印が必要な作業の為に出社せざるを得ない人が多いことが分かる。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2005/20/news022.html
わたしの元勤務校では出勤簿にハンコを押すという動作は2018年頃まではおこなわれていましたが、働き方改革に合わせて勤務時間の記録が必要になった際に、IDカードのタッチに切り替わりました。
出張で直帰の場合には自己申告の退勤時刻でよかったですし、タイムカードのために学校に行くということはまずなかったです。
そもそも出勤簿時代にも、毎日欠かさず押すっていう感じではなかった(月末にまとめて押したりしてた)ので、出勤時のハンコに対しての考え方はゆるいほうだったのだと、今となっては思います。
そして先日、行政手続きにおいてハンコを廃止していく方向性が発表されました。
《朝日新聞デジタル》の9月25日の記事です。
一般企業だけではなく、官公庁でもハンコ廃止の動きとのことです。
河野太郎行政改革相は24日、全府省に行政手続きでハンコを使用しないよう要請した。そのうえで業務上、押印が必要な場合は理由を今月内に回答するように求めた。河野氏は23日のデジタル改革関係閣僚会議で「ハンコをすぐになくしたい」と述べていた。
https://www.asahi.com/articles/ASN9T00WCN9SUTFK01F.html
上の記事から約4ヶ月で、急速にハンコ廃止が進んだという印象です。
教育現場でハンコを使用する機会といえば、真っ先に思い浮かぶのは保護者との書類のやり取りです。
保護者との書類のやり取り
学校から保護者に直接メールで連絡?
《日テレNEWS24》10月20日の記事です。
学校の業務効率化や保護者の負担軽減、迅速な情報伝達につながるとあります。
わたしの元勤務校は私立の中高一貫でした。中学生を担当することがほとんどでしたが、ある程度保護者の手を離れた高校生とは違って、何かと保護者とのやりとりは多かったです。
ハンコが必要だった場面を振り返ると……
■日常の中で必要だったもの
教材の申し込み・講演会の出欠・PTA役員引き受けの可否・成績表確認・三者面談の日程伺い・合宿の申し込み・早退や体調に関する連絡
■将来や命を特に大きく左右するもの
資格試験の申し込み・留学の申し込み・進路調査書・入学願書・食品アレルギーに関する確認書類・学校内の怪我に関する保険書類
他には保護者印ではありませんが、インフルエンザ等の感染症に関する医師からの証明など、出席日数や成績に大きく関わるものもありました。
日常の中で必要だったもの
■日常の中で必要だったもの
教材の申し込み・講演会の出欠・PTA役員引き受けの可否・成績表確認・三者面談の日程伺い・合宿の申し込み・早退や体調に関する連絡
ハンコが必要だったというよりは、親の目を通った(であろう)という確認が必要でした。
「うっかりさんのまま大人になってもらっては困る」ということで、ハンコがないからと保護者に電話をかけたり、ハンコを押してもらうために一旦帰ってもらいもう一度登校させるなどもありました。
鞄の中にぐちゃぐちゃになったプリントが押し込まれている生徒もいましたし、犬にプリントが破られた生徒もいましたし、家の中で兄弟のプリントと混ざったまま放置されている家庭もあり……決して多くはありませんでしたが場合によってはネグレクトや発達障害など、家庭へサポートが必要だと発見するきっかけにもなっていたと思います。
誤解を恐れずに言えば、先生たちは何もハンコそのものが欲しいわけではないのです。
まぁ中には、ハンコのために帰るのが嫌だとか、親とケンカしているとかで、100均で買ったハンコを自分で押す生徒もいましたが……それが後からバレるとより大きな問題になるという……。
「法事で休ませます」と嘘を書いて自らハンコを押して遊びに行ってしまって……などですね。怠学行為(いわゆるサボり)ってやつです。
そういう意味ではハンコ文化があるからって、確認が確実だったわけではありませんでした。
将来や命を特に大きく左右するもの
■将来や命を特に大きく左右するもの
資格試験の申し込み・進路調査書・入学願書・食品アレルギーに関する確認書類・学校内の怪我に関する保険書類
怠学で映画見に行くぐらいならかわいいものですが(困るけど)、成績表を一切親に見せていないことが後から分かって進路決定のタイミングで大揉めするとか、英検申し込んだ申し込んでないだとか。遅刻の回数が多いという警告を確認してもらっているはずなのに、いざ推薦が申し込めないとなってようやく親に伝わってなかったことが分かったとか……。
最近はネット出願も増えていますが、仮に入学時の誓約書なども直筆・押印など不要となると、少し馴染まない感じがします。保証人の欄とかどうするんだろう?省庁でもハンコがなくなるぐらいなら、問題ないのかもしれませんが……?
直接命に関わるような、たとえば食品アレルギーの有無に関するプリントを見た・見てないなんてことで水掛け論なアクシデントが発生したら、法的にはどういう判断になるのでしょうか。
ハンコがなくなるとどうなる?
生徒本人の目を通らないのはどうかと思う
わたしの考えでは、あくまでも生徒自身に関する何らかの書類なわけですから、基本的には生徒自身がその内容を読んだ上で保護者に渡す・教師に提出することが重要だと思っています。
メールなどでの直接保護者に向けた配信となると、生徒自身が気づかない間に、ともすれば生徒の意に反して、何かが申し込まれたり決定されたりするのではないか?という危惧があります。多感な時期ですから、親とうまく話せないっていう生徒も多いはずです。
物事の決定に関して、保護者の意思が強く出てしまうようになるんじゃないかな……。
親と本人の第一志望が違うとか、
希望する部活動が違うとか、
結構頻繁になりますからね……
また、生徒が自分自身でプリントをなくさないような管理方法を学ぶ中で、責任感も芽生えると思います。親が何でもやってくれる、という状態になるのも心配です。
既読スルーせず、ちゃんと読んでくれる?
保護者の方にとっては、いちいちハンコが必要な現状はたしかに負担だと思います。入学時・卒業時(受験時)には特に書類が多く、いくつ署名捺印したか分からなくなっちゃうだろうなっていうぐらいの量があります。
たとえばPTA行事の出欠確認などが保護者に直接配信されてワンタップで済むようになると、便利だとは思います。
しかしアプリ等の長くかしこまった利用規約などを読み飛ばす人の多さを考えると、「日頃より本校の教育方針へのご理解ご協力を……」なんて文章を「本当に読んでくれるのかな?」と心配です。
まぁこれは別に紙媒体でも、読まない人は読まないですけど……(^ x ^;)
結局先生としては、確認のために保護者への電話が増えるだけな気もします。
また、いわゆる円満な家庭ばかりではありません。
メールが父親のスマホに配信されて、母親が知らない間になんらかの(納得がいかない)判断が……なんてことも十分にありえると思います。
紙媒体でも一部の家族にしか見せない場合はあると思いますが、なにより生徒本人は見ますから、そこが大きく異なりますよね。
結局先生は、2つ作ることになる?
オンライン授業の話題でも思いましたが、スマホやパソコンが必ず全家庭にあるわけではないので、そのあたりも気になるところです。
ではメール版とプリント版の2つが必要だとしたら、この人はプリントにしなきゃ、この人は今月からメールOKになったんだったな、とか判断する手間を考えると……教師にとっては負担増だと思います。
元勤務校では、災害等の発生の場合を考えて一斉メール配信のシステムを利用していましたが、メールが届かなかった・アドレスの変え方が分からないなどの問い合わせを受けるのは担任の先生でした。
一斉メールだと多少の遅延が生じる場合もあり「○○さんには来てるのにうちには来てない……あ、今届きました」といった問い合わせ電話も。
学校側にはそのあたりの不具合のケアを誰が(どの先生が)するのかをデザインすることが求められますし、保護者側にはスピードに対する多少の寛容さみたいなものが求められますね。
全部担任の先生にしちゃうと、
先生の負担は増えるばっかり…
おわりに
こう考えていくと……
ハンコ廃止に対してというよりは保護者への配信になってしまうことに対して、わたしは反対です。
かと言って、紙媒体でハンコ不要だと保護者まで届かずに生徒本人で止まってしまうという書類も出てくるとは思うので、難しいところですが……。
学校教育は生徒・保護者・先生の3つが協力することで成り立つものだと思っているので、今のところは報道を見ていて違和感の方が大きいです。
何よりも生徒にとって不利にならないやり方が確立されていくといいなぁと思います。
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