こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
わたしは新卒で私立の中高一貫女子校に着任しました。
がむしゃらに過ごした日々を今になって振り返ると…
着任前に知れてよかったと思うことや事前にもっと準備しておきたかったのにと感じることが、いろいろとあるのです。
これから学校に勤める新任の先生は、着任前の今の時間を有効に使いたいですよね。
今回この記事では、わたし自身の体験や知り合いの先生から聞いた話をもとに、私立中学校の新任美術教員が着任までに知っておくと便利なことやスムーズに引き継ぎをするためのヒントについてお話ししていきます。
学校によって異なる部分は多くあるのですが、だからこそ事前に複数のケースを知っておく・イメージしておくことで、あらゆる状況に対応しやすくなるとも言えます。ぜひ最後までご覧くださいね。
基本的には美術教諭の内容ですが
講師や他の副教科の先生方にも
役立てていただけます!
私立と違って、公立は新任研修がある
公立だと一度に採用される人数が多いこともあり、基本的には各自治体の教育委員会主催の新任研修・講話・オリエンテーションなどがあります。
わたしは私立と同時に大阪市の中学校美術教諭の内定もいただいていましたが、そちらでは大阪市教育センターという場所で1月末に研修が開催されていましたよ。
しかし私立校では基本的に着任前(3月まで)の研修はありません。
教員採用試験に合格したあとに誰かから「始業式までに〇〇をしなさい」と指示してもらえるわけではなく、不安な気持ちのままで4月1日の着任日を迎える場合もあるんですよね…
年度末ギリギリまで教員採用試験が
おこなわれる場合があることや、
私立高校の入試が3学期にあって
忙しいことが影響しているようです
研修以外に、教科の引き継ぎについても同様です。
私立の場合はなにかにつけて「学校による」「教科による」という言葉で済まされることも多いので、正直なところどうしたらいいか分からないと感じている新任教員も多いと思います><
私立学校の引き継ぎはいつ行われる?
学校としての研修やオリエンテーションとは別に、前任者から引き継ぎのための教科打ち合わせが個別に設定される場合があります。
着任前に知れると安心できる情報はこちらです。
基本的には新任教員側から聞かなくても教えてくれることが多いとは思うのですが、念のためにこれらのポイントを押さえておくと安心ですね。
私立はいろいろと学校独自のルールや慣習があるので、新卒の先生よりも公立に勤めたことがある先生のほうがギャップが大きくて困惑するしれません。
そもそも、私立の先生たちは
異動がほとんどない環境なので
引き継ぎに慣れていないことも…
どんどん質問していいと思う!
逆にいうと着任までに引き継ぎに関する連絡がまったくない場合はこれらの情報を知ることができないので、学校宛に電話で引き継ぎの有無や時期について問い合わせてもいいと思います。
前任者の年度末の忙しさや生徒の個人情報取扱の関係で引き継ぎが4月に入ってからになってしまう場合もありますが、3月末の春休み期間に設定されることが多いです。
ここからはわたしの体験を織り交ぜながら、確認するべきポイントを具体的にご紹介していきますね。
週あたりの授業時間数を確認する
中学校の週あたりの時間数
中学校における年間の授業時数は1年生が45時間、2年生と3年生が35時間と定められています。
なお1単位時間は50分で、授業は年間35週です。
公式中学校標準授業時数|文部科学省
実は昔は1年生と2年生については70時間分、つまり週に2時間分の美術の授業が設定されていたそうなんですが、1998(H10)年に総合的な学習の時間が登場して以降は減らされてしまったんですね。
2023(R5)年現在、美術は1年生で週に1.3時間分ということになります。
同じように音楽が1.3、総合が1.4になっており、この3つの教科を1年間の中でうまく時間割調整するスタイルがベーシックなようです。
1学期は美術を週2時間、2学期は音楽を週2時間、3学期は総合を週2時間…といった具合です。
美術 | 音楽 | 総合 | |
---|---|---|---|
1学期 | 2 | 1 | 1 |
2学期 | 1 | 2 | 1 |
3学期 | 1 | 1 | 2 |
と言ってもこの時間数は標準ということなので、このあたりは私立ならではの特色づくりが大きく反映されると言えます。
たとえば、私立は土曜日も授業があることや夏休み・冬休み期間を独自に設定できることから、そもそも年間45週で計算される場合もあるんですよね。
これなら美術も音楽も週1時間で設定可能になります。
わたしの勤務校では美術や音楽といった芸術教育に力を入れたコースが存在したので、芸術教育を大切にする土壌があり、週に2時間分の美術の授業が設定されていました。
2時間あると授業にもかなりバリエーションを出すことが出来ますが、学校の特色づくりに応えられる魅力的なカリキュラムが求められている証であるとも言えます。
週に2時間の場合、連続か飛び石か
週に2時間分と言っても、時間割が2時間連続なのか飛び石なのかで、実技の授業で実現可能な内容が大きく変わってきます。
連続した2時間の場合
たとえば「火曜日の3時間目・4時間目」といった時間割ですね。
1時間ずつになっている場合と比べると準備や片付けの時間が1回分節約できるので、生徒の作業時間を多く設定することができます。
カリキュラムを考えるにあたって、これがとっても大きいです。作品の充実度が増しますよね。
ただ、欠席した生徒にとっては一気に2時間分遅れてしまうことになります。
放課後に時間を作ってあげる・昼休みに課題説明をしてあげるなどのフォローが必要ですね。
そして、クラスごとの授業時間数の差が大きくなりやすいです。
祝日が多い月曜に2時間あるクラスとその他の曜日に2時間あるクラスだと、1つの学期中に6時間ぐらい
差がついてしまうことも!
授業数が多いクラスを調整するために自習にする場合もあって、鑑賞用の映像作品を見つけるのが結構大変でした。
飛び石の2時間の場合
たとえば「月曜日の1時間目」と「水曜日の5時間目」といった時間割ですね。
粘土で造形を作る場合など、2時間連続だと乾かないままむりやり進めなければならないこともありますが、曜日が分かれていることで乾かす必要がある作業を無駄なく設定することができます。
また、1つの曜日に固まっていないということは、クラスごとの授業時間数の差が生じにくいです。
クラス数が多い学校であれば特に、授業時間数を調整する手間が減るととても助かります。
一方で、これは授業数が週1の学校と同じと言えば同じですけれど、50分の中に毎回準備と片付けの時間が必要っていうのが効率的ではないんですよね。
生徒によっては悩んだり迷ったりしているうちに、1時間が終わってしまう可能性があります。
「絵の具をパレットに出したと思ったら片付けの時間が来ちゃって、やる気が失せた!」なんてことにならないように、教師が気付いて導いてあげる必要があります。
2時間連続と飛び石、どっちの時間割がいい?
それぞれの特徴をまとめるとこんな感じです。
連続2時間 | 飛び石2時間 | |
---|---|---|
メリット | 生徒の作業時間を多く取れる 授業作りに幅を出すことができる | 乾かしながら進める作業をさせやすい クラスごとの時間数の差が少ない |
デメリット | クラスごとの時間数の差が大きい 欠席した生徒へのフォロー必須 | 準備と片付けに時間を要する 悩みがちな生徒のフォロー必須 |
もしもあなたの校務分掌が教務部配属などで時間割作成に携わり、連続か飛び石かを選ぶことができる場面があれば、2時間連続を選んだほうがいいと思います。
生徒の作業時間を多く取れるということはそれだけやらせてあげられることが増えますから、学校の特色づくりにも応えやすいです。
生徒数とクラス数を確認する
設備数とクラスの人数が合致するか
勤務する学校に複数のコースがある場合、クラスによって人数が大きく異なる場合があります。
画用紙を置く乾燥棚の台数や水道の蛇口の数など設備の都合もありますし、人数やクラス数によって、出来る授業・向いている授業が大きく変わってきますよね。
基本的には前年度までとそう変わらないはずですが、私立の場合は入試状況次第で入学人数が大きく変わりますので、クラスの人数も10人単位で増減する可能性があります。
「前任者が従来やっていた授業が、次の中1の人数では難しそう…」なんて場合は、早急に新しく指導案を考え直す必要があります。
小学校での経験差が大きいことを考慮する
特定の小学校出身の子ばかりが通う公立中学校とは違って、私立中学校は広くさまざまな地域から生徒が集まります。
つまり小学校での経験にバラつきが大きいんですよね。
生徒によって「普通」が異なるので、その分安全管理にも気を使う必要があります。
「図工で粘土をやったことがない」
「6年間ずっと専科の先生だった」
いろんな小学校があります…
その人数で安全を確保できるか、よく考える
カッターナイフや彫刻刀など刃物を必要とする題材は、安全に実施可能かどうかの判断が必要です。
私の場合は版画の授業は28人クラスの学年では実施しましたが、42人クラスの学年の時には別の題材に置き換えましたよ。
彫刻刀5種類×人数分を管理すること、それが美術室の机いっぱいにあり準備や片付けの際には狭い通路を42人が行き交う状況を想像すると、安全を確保できないと考えたからです。
美術で使う刃物に対して「小学生でも使ってる道具なんだから大丈夫」「多少の怪我はつきもの」と捉える先生もいますが、わたしは思春期の独特な衝動性を考慮すべきだと考えています。
多感なこの時期においては誰かを傷つけてしまう場合や、自分自身を傷つけてしまう場合があります。
その際に学校の備品を使ったかどうかというのは、たとえそれがなんてことないような工作ばさみであっても、備品の管理体制を問われる重大なことなのです。
先日愛知県で起こった事件でも、刃物は学校の備品ではないとわざわざ報道で言及されていましたよね…。
具体的な安全管理対策の一つとして、
生徒用の道具にはすべて番号を振って
出席番号のものを使わせていました
現行のカリキュラムを確認する
教材被りを防ぐ必要がある
美術の場合はいわゆる主要5教科と比べるとカリキュラムの順序に自由がありますから、現行のカリキュラムを確認しておかないと課題内容が前の年と被ってしまう可能性があります。
去年も粘土でオカリナ作ったよ!とか
逆にレタリングまったくやってない!
とかってことが起こり得るんですね
前任者がやっていたカリキュラムをそっくりそのまま引き継ぐ必要はないと思いますが、生徒の中には「来年は先輩たちがやっていた△△の授業ができる!」と期待している子もいるかもしれないので、3年間の教材のバランスは大きく変えない方がいいかなと思います。
それに、自分以外にも教科の先生がいる場合は「来年度も同じだと思ってもう準備しちゃった」という状況になる可能性もあります。
生徒の様子を見ながら教材研究を進めて、翌年度から自分の色を出していくのが賢明です。
参考作品やプリントは自分で用意する
前任者のカリキュラムを引き継ぐ場合は、前任者が作った作品や過去に在籍していた生徒の作品がすでに参考作品として準備されているかもしれません。
参考作品がすでにあったとしても、自分自身で参考作品を新たに準備すべきです。
生徒がつまずきそうなポイントを発見することが出来ますし、必要な作業時間の把握につながりますよ。
授業に使うスライドやプリントも同様で、自分が思う評価のポイントやしゃべりやすい説明文章に合わせて作り替えた方がいいです。
特に評価のポイントについては、先生が変わると生徒も保護者も敏感になるところですから、しっかり表明しておきたいですね。
受け持つコマ数を確認する
標準的には週に18コマほどを受け持つことになります。
一日のうち半分ぐらいが授業時間で、残りの時間で事務作業や電話対応、採点などをおこなうという比率になりますね。
1時間×6クラス×3学年ならちょうど18時間ですが、そううまくいくことばかりではないと思います。
たとえば6クラス×1学年と7クラス×2学年なら、合計20時間になってしまいます。
このようにちょっとだけはみ出す場合、そのためだけに非常勤講師を雇うのは大変ですから、増担手当が支払われた上で20時間を超える授業を受け持つことも少なくありません。
副教科あるあるといいますか、先生の数が少ない教科だとコマを分け合うっていうことが出来ないので、どうしてもそうなってしまうんですよね…
空き時間が少ないと
トイレにもなかなか行けず
日々かなり大変です…
高校の選択授業を数コマ持つ可能性
勤務する学校が中高一貫校の場合は、中学校教員としての採用であっても、高校の授業も受け持つ可能性があります。
中学の免許がある先生は、基本的に高校の免許も持っているはずですよね。
高校の場合は「芸術」として音楽や書道と一括りになっているので、美術は中学のようなクラス単位の授業である場合もあれば、選択授業として設定されている場合もあります。
そういった状況で高校のコマ数がすごく少なくなると、中学の先生が高校も兼任になることがあります。
少し珍しい例ですが、
わたしの知り合いの先生は
系列小学校の図工専科を
兼任していましたよ
とはいえ、そもそも「芸術」は音楽一択に絞っているっていう学校も多いようです。合唱コンクールなどの学校行事との兼ね合いがあるからですね。
実際にわたしの母校の高校は音楽のみで、美術や書道は3年間全くありませんでした。
美術の授業の立ち位置を確認する
校風については採用試験を受ける前に、HPやパンフレットなどであらかじめ調べてから応募していることと思います。
全体的な雰囲気はある程度はそれで分かると思うのですが、美術の授業の立ち位置についてはぜひ前任者に確認しておきたいところです。
両極端な例としては、こんな感じです。
- 進学校で、副教科全般に対してやる気が乏しい生徒が多い
- 特技や技能を生かす雰囲気があり、芸術に関する教科を大切にしている
特に進学校に関しては、主要5教科を優先させるために美術(副教科)の宿題や補習を設定しないように学校側から指示される場合もあります。
分掌業務や行事に関する業務についても美術に関する業務は軽んじられがちというか風当たりが強いというか、「5教科の先生は忙しいから」と副教科の教員にばかり仕事が回ってくることもあるとかないとか…。
一方で、私立ならではの特色づくりとして芸術やスポーツに特化している学校は、予算が多くついていたり発表の場を設けてもらえたりと優遇されている場合があります。
その分美術の授業への期待がものすごく大きいと言えますし、専門性を生かした大学進学を希望する生徒が多くなりますから、生徒や保護者を飽きさせない工夫や適切な進路指導力が必要です。
担任になる可能性を確認する
年齢や他校での経験年数にもよると思いますが、一年目でいきなり担任を持つことは少ないです。
少ないですが、担任を持つことはあり得ます。
担任を持つかどうかで4月以降の忙しさが段違いなので、教諭や常勤講師として着任する方は「担任を持つことってありますかね…?」とやんわりとでも触れておいた方がいいです。
有期雇用の常勤講師が
担任を持つかどうかは、
学校によって違います!
分掌や部活動顧問の有無を確認する
一度に複数人数を採用する公立とは違って、私立の場合は採用試験を設定する時点で「辞める○○先生のポジションに入る人を募集する」と決まっています。平たく言えば後釜ってことです。
少子化のこのご時世に、単純な増員というのはかなり稀ですからね。
必ずというわけではありませんが、教科に関する仕事はもちろんのこと、辞める○○先生の校務分掌や部活動の顧問を引き継ぐことになる場合が多いです。
と言うのも、辞める○○先生の仕事をそのまま引き継がないということは、他の先生の分掌や顧問を変えなければならないことを意味するんですよね。
公立のように毎年複数人の異動がある状況とは異なりますから、特に部活動に関しては、一度その部活の顧問に決まると後から変わることはあまりないんです。
あの学校のあの部活の顧問といえば
もう何十年もあの先生だよね!
っていうのが私立には多いです
美術の先生であれば美術部や漫画研究部、写真部などの顧問になる可能性が高いですが、学校によっては文化部1つと運動部1つなど、2つ以上の部活の顧問を持たされるケースも…。
もし顧問になる部活がはっきり分かっている場合、部長・キャプテンの生徒についてはどんなタイプの子なのか少し聞いておくと、着任後にスムーズに関わっていきやすいです。(先入観には要注意)
おわりに・まとめ
今回は、わたし自身の体験や知り合いの先生から聞いた話をもとに、私立中学校の新任美術教員が着任までに知っておくと便利なことやスムーズに引き継ぎをするためのヒントについてご紹介しました。
前任者に確認したいことはこちらです。
特に授業の内容に関する部分は4月になってからでは教材発注などの準備が間に合わない可能性があるので、なるべく3月のうちに前任者と打ち合わせをしておきたいですね。
新任の先生にとって、この記事が少しでも参考になると嬉しいです。
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