こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
担任業務をする中で、特に中3を受け持つと必ず訪れるのが進路指導・キャリア教育ですよね。
今回の記事ではわたしなりに持っていた「なりたい職業ではなく、どんな人間でありたいか」を重視する指導観と、その考え方につながったある生徒の言葉、そして進路指導の際に気をつけていたポイントについて書き留めてみることにしました。
中学生への進路指導についてヒントがほしい先生は、ぜひ最後までご覧くださいね。
「どんな人間でありたいか」を重視したい
将来の夢=職業、なのか?
子どもが将来の夢について尋ねられる時って、お花屋さんとか漫画家とか、職業名を求められているように思います。
わたし自身の幼少期もそうでしたし、当時は特に違和感を持っていませんでした。
しかし、生徒の将来についてともに考えていく中で「将来の姿って、大人になった時の姿って、職業に縛られるものなのだろうか?」と疑問を持つようになりました。
転職を重ねる友人がいたり、AIの影響で数年後にはなくなる職業ランキングなんてものを目にしたりしたことが、要因かもしれません。
自分の将来像については「優しい人」「落ち着きがある人」「前向きな人」というような人柄としてどういう大人でありたいかという部分で語られるべきでは?と考えたのです。
わたしのメインは中学生の指導
わたしは高校生も授業を持つことはありましたが、メインとして関わっていたのは中学生だったので、高校生への進路指導とはまた違っていたというのもあると思います。
高校生だと、直近の未来という感じが強いですからね。
なお、わたしは出身校も元勤務校も私立の中高一貫校でした。
私立あるあるですが地域との関わりが少なく、職業体験はありませんでした。
そして中卒での就職・別の高校を受験という選択肢を取る生徒が原則いなかったという環境も、この考え方に影響していると思います。
文部科学省の中学校キャリア教育の手引き
文部科学省の中学校キャリア教育の手引きには、このように書かれています。
平成 11 年の中央教育審議会答申以降,キャリア教育の定義は若干の変容を伴いつつ今日に至っている。平成 23 年1月,中央教育審議会がそれらの変容を踏まえ,キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」と改めて定義したことも第1節で言及した通りである。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1306815.htm
平成11年(1999)はわたしが10歳、平成23年(2011)はわたしが22歳の時なので、ちょうど就職した時がキャリア教育の定義の転換期だったみたいです。
「職業的自立」ということで、なりたい職業を考えることは重要視されているんですね。
大ベストセラーとなった『13歳のハローワーク』が発売されたのが2003年と2010年だそうで、ちょうどこのあたりの時期です。
「誰かを救える仕事」は幅広い
じゃあどんな仕事に就きたいか?と考えた時に、たとえば「人を助ける仕事に就きたい」と医療関係を目指す声を聞きます。
でも、別に直接メスを握ることだけが人を助けることではないんですよね。
もちろんお医者さんは素晴らしいけれど、そこには看護師さんや作業療法士さん……もっと広く言えば医療器具を作る人や病院の寝具を作る人だって、立派に人を助けているのだと思います。
こう考えるようになったのは、ある生徒との出会いが大きく影響しています。
衝撃を受けた、ある生徒との出会い
獣医になりたかったけど
わたしが顧問を務めていた美術部のある生徒、将来の夢は獣医でした。
犬が大好きな子で、「これからも犬を大事にしたい→獣医になろう」と考えたそうです。
しかしいろいろと調べるうちに、獣医学部はそもそも開設している大学が少なく、かなり狭き門だということが分かったのです。
それに動物というのは犬だけではないわけで、獣医学部に進んだからといってどうやら犬の研究だけをし続けられるわけではなさそうだということにも気付きます。
それからしばらくして……
その生徒は進路として美大を選びました。
彼女が美大を選んだ理由
たしかに犬の絵を描くことが達者な子でしたが、獣医になりたいのに、美大?と誰もが驚きました。
彼女が美大を選んだ理由がこちらです。
「犬の絵を描き続けることで、犬の魅力を表現し続けることで、犬を大事にしようと思う人が増えていく世界を目指す。それが結果として犬を救うことになると思う。」
わたしは、目から鱗でした。
獣医になって直接メスを握って助けることはもちろん素晴らしいことだけれど、それだけではなく、メスを握る人のことを助けること、動物病院に来る人の心を癒やすこと、普段の犬の食事や運動の環境を支えること…。
それらも十分に犬を救うことだと思い至ったんですね。
自分にできることを考えた時に、たとえば犬がデザインされたグッズをもっと流通させて使ってもらうこと、犬の絵画を病院に飾ってもらうことが、犬が好きな人の気持ちを明るくしたり楽しませたりする、犬を安易に手放す人が減る→犬をもっと大事にしようと思ってくれるのでは?ということで、美大を選んだわけです。
獣医になることはあくまで手段であり、目的ではなかったんですね。
この生徒との出会いが、わたしのその後の進路指導観に大きく影響しました。
進路指導で気をつけていたポイント
生徒が就職するのは約10年後
子どもの考える職業像は、ドラマや漫画から得られた情報で想像されたものが多いです。
でも大体フィクションなんですよね…。
それに中学生からしたら就職するのは約10年後なので、世の中が大きく変わっている可能性が高いです。
2020年にこんなにマスクが売れることになるなんて、航空業界がダメージを受けることになるなんて……2010年には誰も予想していませんでしたよね。
また、保護者の方の想像で「この職はこうだろう」と思い込みで生徒に伝えられてしまうことも多かったのですが、残念ながらそれがまた20年ほど前の印象によるものだったりも…
今は全然そんなことないよ!
って場合も多かったです…
そういう意味でも、業種や職業名を指定して考えさせるタイプの将来の夢は、あまり意味がない、むしろ間違った固定観念に囚われてしまうことがマイナスだなって思っていました。
前述のように平成23年(2011年)にキャリア教育の転換期があったようなので、保護者世代が「将来の夢=職業」というイメージなるのは、ある意味当然のことなのかもしれませんけれどね。
「この職業だからこう」と決めつけない
進路指導をする側の先生が、生徒に対して安直に「この仕事はやめたほうがいい」などと発言してしまうことは避けるべきです。
その生徒自身との相性っていうのはあると思いますが、それとはまた違った、弁護士だからこう、コンビニ店長だからこう、みたいな…職業の貴賎っていうんですかね。
昔よりも働き方が柔軟になってきた証拠といいますか、キャリア教育転換期以前に就職をした人たちにとってはその考え方が当然だったり、それを公言することも普通のことだったのかもしれませんけれど、令和の今はどうしても違和感があります。
わたし自身、「先生は聖職なのか?」という概念に苦しんだこともあり、「この職業だからこうするべき」という考え方が苦手です。
「美大は食っていけない」も
すごくよく言われるですけど、
そんなの人次第なんですよね。
医学部行ったって順風満帆な
人ばかりじゃないっていう…
同じ職業でも、さまざまな働き方があることを伝える
たとえば看護師さんの中にも、さまざまな働き方があります。
- 毎日大きな手術がある病院
- 地域住民の健康を支えるクリニック
- 訪問型の看護
- 終末期看護(ターミナルケア)
でも中学生の想像する看護師さんって、『ナースのお仕事』に出てくるような大病院勤務であることがほどんどなんですよね。
「看護師とか夜勤あるから嫌」なんて理由で、考えから外してしまう生徒も多いです。
考えてみれば、身近なクリニックでは
夜勤はしてないよね?と気付けますが
つい固定観念で捉えてしまうようです
修学旅行の引率として看護師さんを契約する機会があったので、「登録しておいて決まった日にだけ働くタイプの看護師」の働き方の例として紹介したこともありました。
「こんな人になりたい」を考える習慣をつけさせる
最終的には何かしらの仕事に就くわけで、その仕事だからこそ得られるスキルや仲間、充実感というのもあるのですが、その前にまず「こんな人になりたい」を考えさせたいと思っていました。
将来のあなたは、この中のどんな人になるでしょう。
①道端に平気でゴミを捨てる人
②道端のゴミを拾う人
③道端にゴミを捨てないように看板を描く人
④道端にゴミを捨てる人を叱る人
⑤道端のゴミに気付かない人
さすがに①を選ぶ生徒はあまりいませんが、②もあまり選ばれません。多くなるのは⑤ですね。
こんな感じで「他人のためにどれだけ動くか(あるいは動きたくないか)」みたいなことを、身近な例を挙げて投げかけていました。
それも、別にLHRでも道徳でもない時に、ふっと投げかけることもよくしていました。
これはその場で答えてほしいっていうよりは、「いろんな大人に触れながら、こんな人になりたい(なりたくない)ってイメージしておくといいよ」という投げかけなんですね。
「歩きスマホするような大人になりたくない」「SNSで誹謗中傷するような大人になりたくない」、「いやわたしは、やってしまうかも…」「そうならないためには…」などと想像させたいんです。
職業診断ってどうなの?
「R-Cap」など、膨大な質問からおすすめの職業を選ばせるタイプの進路指導も学校の方針で実施したことがありますが、そういう場面で聞くと、どうしても構えてしまうんですよね。
そして《結果》として出てきたおすすめ職業名に引っ張られる生徒が多かったです。
アナウンサーになりたいけど、
全然おすすめに出てこなかった…
なんて悩んでしまう子も…
「自分がなりたい大人像」があいまいな子に職業診断を安易にさせるのはよくないなって、個人的には思っていました。
中学生の時点で職業名を明確な目標として掲げる生徒も少数ながらいましたが、そういう生徒って職業名が重要って言うよりは、「このスポーツで○○な記録を出したい」「このブランドで○○を表現したい」という、その先の目標があるからこその職業名だった気がします。
時代が変われば、目標を叶える場(職業)は変わっているかもしれませんしね。
おわりに
今回の記事ではわたしなりに持っていた「なりたい職業ではなく、どんな人間でありたいか」を重視する指導観と、その考え方につながったある生徒の言葉、そして進路指導の際に気をつけていたポイントについてまとめてみました。
やりたいことやなりたい自分のビジョンがあれば、職業そのものは時代や状況に応じて変わっていくものだと思っています。
そういう意味では、
一番進路指導しづらいのは
学力どうこうというよりも
「自分にこだわりがない子」かも…
実際のところ、わたしは教師という職業からは離れてしまって目の前に生徒はいませんが、こうして別の方法で教職志望の人や現役の先生に役立つ情報を考えて発信していく道を選んでいます。
教師とは別の形で、子どもたちの教育や成長に関わろうとしているんですよね。
今はわたしにできる方法で、微力ながら教育に寄与していきたいです。
進路指導・キャリア教育に関わっている人にとって、この記事が少しでも参考になると嬉しいです。
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