こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
さっそくですが、入学式の日の大きな目標は「学校や教師は敵ではなく、ともに子どもを育てる仲間である」と保護者の方に思ってもらうことです。
子どもが小学生の頃に嫌な経験があったり保護者自身に嫌な思い出があったりして、教師という存在そのものにトラウマを持つ生徒や保護者も少なくありません。
「この担任なら安心できるかも、寄り添ってくれるかも」と思ってもらえないままスタートすると、その後の歯車がうまく噛み合わず、些細なことでも誤解や人間関係のトラブルにつながりかねません。
逆に言うと入学式の日にいいスタートを切ることができれば、20代の担任であっても保護者や生徒から頼られる存在になることができます。
今回の記事では、わたしが実際に入学式の日に教室で伝えた内容を紹介しています。
- 新任教員の人
- 初めて担任や副担任を持つ人
- 初めて女子校に勤める人
- 学級経営について知りたいと思っている人
- 保護者との関係性づくりに悩んでいる人
こんな方におすすめです。ぜひ最後までご覧くださいね。
入学式の日が大切な理由
4月に着任して、即担任!という新任教員の方もいらっしゃることでしょう。
授業準備もたっぷり抱えた状況ですから、保護者への詳しい挨拶はクラスの様子を見てから考えたい、しっかり準備して後日にしたい…と思うかもしれませんが、それはおすすめしません。
なぜならば、3年間の中で最も多くの保護者が集まる日は入学式の日だと言えるからです。
もちろん入学式以外にも三者面談やPTA集会など保護者と教師が対面する機会はあるのですが、面談はママだけ、PTAはおばあちゃんが代理で出席、なんてことも珍しくないのです。
もう二度と学校に来ない、担任に対して入学式の日の印象だけしかない保護者も案外いるんですよね。
私学だと家と学校が遠いことも
よくあるので、なおさら
足が遠のくのかもしれません。
大事なお子さんを責任をもって育てていきますという所信表明を最初にビシッと決めて、この日を信頼関係づくりのよいきっかけとしたいところです。
勤務校の生徒観
- 美術教師(常勤講師2年、専任教諭6年)
- 20代女性
- 私立の中高一貫女子校の中等部
- 担任学年は3年間持ち上がり
- 一クラス3〜40人 × 5〜7クラス
- 生徒一人ひとりの個性を伸ばす校風
- 教師には手厚く丁寧な対応が求められる
わたしは8年間でいろいろな生徒と関わりを持たせてもらいましたが、美術という教科特性や女子校における年齢の近い女性教師ということもあってか心が敏感すぎる子や言葉によるコミュニケーションが苦手な子、そしてその保護者が悩みを打ち明けてくれる場面も多く、勤務年数の割には多くの経験を積ませてもらえたように思います。
校風や生徒によって当然相性がありますし、先生によっても向いている方法というのは一人ひとり異なると思いますが、わたしの工夫や苦労が一つの例としてどなたかの参考になれば幸いです。
なおプロフィールにも明記している通り生徒や先生の特定を望むブログではありませんので、一部情報を置き換えて記載する場合があります。
20代担任教師が入学式の挨拶で伝えたい4つのこと
ここからは状況が分かりやすいように、実際の話し言葉のように書いてみました。
教壇から生徒と保護者を目の前にして話すという場面を想像して、お読みいただければと思います。
なお、それぞれの項目に補足として、伝える際の注意点や言葉の意図を書き添えています。
伝えたいことはこの4つです。
主に人間関係づくりに関することですね。
これらをしっかり生徒・保護者と共有して、よいスタートを切りましょう!
①全員すごく仲良くは無理です
人間関係づくりについて、保護者の方にも新入生の皆さんにも、入学する時に知っておいてもらいたいポイントだなと思うことが4つあります。
先輩たち(前に受け持った学年)が成長していく様子を見ていて、わたしなりに発見したことです。
一つ目にお伝えしたいことは、少し驚かれるかもしれませんが「全員すごく仲良くは無理です」ということです。30人も40人もいて全員と性格が合うなんてことは、まずないんです。
学校の役割の一つに、「性格や感覚が異なる人との違いを認める力を身につけ、苦手な人との自分なりの付き合い方を学ぶこと」があると思っています。
特にここは私学ということで、同じ地域で育った子達が地元の中学校に集まっているという状況とは異なり、小学校までの経験に大きな違いがあります。
たとえば、一人で電車に乗り慣れている子もいれば、徒歩通学しかしたことがない子もいます。
運動会や夏祭りと聞いて思い描く規模も、かなり違うと思います。
地域に関わらずもっと身近な違いを言えば、生活習慣があります。
寝る時に電気を完全に消すか消さないか、朝の歯磨きは食前か食後か両方か…。家族の中でも「違う」こともあるかと思います。
大人にとっては「違う」ことは当然だと思えるのですが、中学生という多感な時期においてはこの「違う」ことに対して非常に敏感です。
必要以上に仲間意識を持つことが増えますし、違いを認められずにぶつかってしまいます。
好きなアイドルグループが違うと言って争いますし、そのグループの中で誰が好きなのかでも争いますし、同じ芸能人のことが好きなのに好きな理由が違うからと言って争います。
無視しちゃったり、攻撃しちゃったりするのです。
30人も40人もいて全員と性格が合うなんてことは、まずないんです。
相性がありますし、好みがありますし、「違う」ことは仕方がないんです。
だからこそ「性格や感覚が異なる人との違いを認める力を身につけ、苦手な人との自分なりの付き合い方を学ぶこと」が必要なんですね。
ここにいるみんながこの力を身につけられれば、教室は居心地のよい空間になります。
「この子のここが合わないな」って思うことがあった時に、相手を批判したり攻撃をしたりするんじゃなくて、クラスメイトとしての程よい距離感を見つけてくれたらいいなと思っています。
一方で、いろんなぶつかり合いをしながら共に過ごすことで、互いに理解し合える、本当に仲が良い生涯の友を得られるかもしれません。
そういったさまざまな人間関係づくりの練習をする場所が、中学校なのです。
伝える際の注意点・補足
いまどきもう、そんな学校はあんまりない…と思っているのですが、幼稚園や小学校では「みんなで仲良く」「クラス全員が友達同士」という指導がまだまだ抜けない学校や先生も存在するようです。
あるいは保護者が、ご自身が子どもだった頃に受けた指導から抜けきれず、「なんで同じクラスの子なのに仲良くできないの」なんて言ってしまうケースもあります。
でも中高生からしたら、たまたま同じ年齢で同じ地域に住んでいるというだけで「仲良くして当然」って言われても…って感じなんですよね。ママ同士が仲良しだけど子ども同士はあんまりってこともありますし。
合わない相手を無視したり攻撃したりすることなく「クラスメイトとしての最低限の付き合い」が出来るようになることを目指させたい、という意図をしっかりと伝える必要があります。
無理に仲良くさせようとすると
逆に無視や陰口といった
いわゆるいじめを生むんですよね…
場の空気次第では「保護者の皆さんも、程よい距離感って…大人同士だってそうですよね。お勤め先の会社の人の中には仲良しさんも数人いらっしゃるとして、全員が仲良しで、週末は全員でショッピングに行って…という方はあんまりいらっしゃらないですよね。我々の職員室だってそうです。」と保護者に投げかけると、笑いや頷きをもらえて、スムーズに話しやすくなりますよ。
当日あまり時間がない場合は、この①だけでもぜひ伝えてください。
②毎日笑顔では帰りません
次にお伝えしたいことは、「毎日笑顔では帰りません」ということです。
「自分の子どもには笑っていてほしい」というのは誰しもが願うことですし、毎日新しい発見があって、今日あったことを笑顔で話して…という姿を望まれると思います。
わたしたち教員もなるべく笑顔でお帰ししたいのですが、先程お伝えしたように人間関係づくりの練習をする時期になりますので、時には涙する日もあると思います。
保護者の方もきっと思春期には、いろんな涙を流してこられましたよね。ぶつかって乗り越えて、いろんな人付き合いの練習をなさったはずです。
お子さまもこれから同じような経験を積んでいきますから、担任であるわたしだけではなく、部活動顧問や教科担当など教職員一同で、乗り越えていく過程を精一杯支えたいと考えています。
学校での様子についてお電話でご相談させていただく機会が少なからずあるかと思いますので、ご協力をよろしくお願いいたします。
まったく傷付かずに思春期を過ごすことは、やはり難しいです。
毎日笑顔しかないとなると、どうやってストレスを発散しているのだろう?何か隠してる?我慢してる?逆に誰かに無理をさせてる?と、むしろ心配になります。
そうは言っても大きく傷つくことも避けたいし、大きく傷つけてしまうことも避けたい、つまりお子さまを被害者にも加害者にもしたくないのです。
新入生の皆さんには、大きな傷になる前に、小さな傷のうちにいろいろ悩みを相談してもらいたいなって思っています。
一緒にたくさんの小さな傷を乗り越えて、柔軟でしなやかな心を持つ人に育ってもらいたいです。
伝える際の注意点・補足
小学校が順風満帆だった家庭ほど、「泣いて帰ってきた」という事象に対して敏感です。
特に小規模な小学校出身だと子ども同士がぶつかることも少ないみたいで、保護者も生徒もトラブル慣れしていなかったり。
涙の理由を本人が親に言わなかったがために保護者が激昂して、学校に電話をかけて問いただしたが、実は「アイドルのライブチケットが外れたから泣いていただけだった」なんてことも…。
実際に泣いて帰る前に、「泣いて帰ることもある」という想像をしてもらうことで、ショックを和らげたいという意図です。
ただし、言い方を気をつけないと「泣いて帰って当然だと担任は考えている!うちの子は傷ついてるのに!傷ついて当然だと考えている!」と誤解を生んでしまいます。
大きく傷つくことも避けたい(被害者にしたくない)し、大きく傷つけてしまうことも避けたい(加害者にしたくない)、だからパンクしてしまう前に小さな傷のうちにいろいろと乗り越えさせたいという部分がすごく重要です。
生徒から相談してもらえる担任で
ありたい、ということを
強調してもいいと思います◎
③家庭と学校の姿は異なります
三つ目にお伝えしたいことは、想像しづらいかもしれませんが「家庭と学校の姿は異なります」ということです。
「家ではお手伝いも全くしないし弟にキツく当たるんです」と保護者の方は仰る。ところが「学校では率先して掃除をするし、後輩の面倒見がいい優しい子」であったりします。
逆に「家では明るいムードメーカーでとってもいい子」が学校では「人を傷つける言葉を平気で使ってしまう」場合もあります。家ではまったく泣かない子が、学校では保健室で毎日泣いて…なんてことも。
ストレスがある時に親や兄弟に当たる場合もあれば、学校や習い事の場で当たる場合もあります。
それは言葉であったり、時には物を投げる、叩く蹴るなんてこともあるかもしれませんが、その姿は「家庭」と「それ以外」で大きく異なることも案外多いのです。
今後、良くも悪くも「うちの子はそんなことしない」と感じる場面があるかもしれませんが、成長の過程で「親御さんだからこそ弱いところを見せたくない、いい子でいたい」や「家族の前では安心してなまけられるけど、友人の前ではしっかり者でいたい」という気持ちになるのは、ままあることです。
どちらか一方の様子だけでは、なかなか本人のことを掴めなくなっていくんですよね。
ですから、お電話などで様子を伝え合い、学校とご家庭とで連携していくことは不可欠です。
その時のありのままを受け入れて、ともにお子さまの成長を支えていきたいと考えています。
伝える際の注意点・補足
「うちの子は、他人にバカなんて言いません!」
「うちはそんなふうに子育てしてません!」
トラブルがあった時にこうおっしゃる保護者の方が多いのですが、なんていうか育てたように育つわけではないんですよね。家庭以外からもたくさん刺激を受けて育っていますからね。
思ってもみない発言や行動をすることがあるっていうことは、早い段階で伝えておいた方がいいです。
このギャップはなにもネガティブな場面ばかりで起こるものではなくて、「うちの子がボランティアなんてするわけない」といったポジティブな場面でも起こり得ます。
保護者の方も自分の過去を振り返ると、
家と学校の姿や態度が同じってことは
あんまりなかったんじゃないかなぁと
思うんですけどねー
④お子さんのことを褒めてください
最後にお伝えするのは、ずばり「褒めてください」です。
保護者の方同士で「いやいやうちの子なんて全然…」「お宅のお嬢さんはいいわねぇ、それにひきかえうちは…」という会話もあるかもしれませんが、出来たことや得意なことに対しては、しっかりお子さんのことを褒めてください。
多感な時期に受ける否定的な言葉は普段以上に重くのしかかって、「どうせ自分なんて」と子どもたちの心の中に残ってしまいます。
なんでもかんでも褒めてほしいとか、自慢してほしいということではないのですが、保護者の方が少々謙遜しすぎる場合があるなぁと感じています。
特にお子さまが聞いている状態で、不必要に否定をしないでくださいね。
新入生の皆さんは思春期ということで、褒められても素直に喜べないかもしれませんが、心の中でもいいので「ありがとう」と言ってみましょう。
伝える際の注意点・補足
褒められているのは子ども自身なのに、親がそれを遮ってまで「うちの子なんて大したことない」なんて否定したりするんですよね。
「うちの子はこれしかできないから」などの言葉は呪いのように子どもたちの心を縛りますし、謙遜って嫌な文化だなって思うことが多々あります。
担任から先にこういった投げかけをしておくことで、ママ友同士の会話にもいい影響があるといいなと期待を込めています。
逆にすごく自慢したがる
保護者の方もいるので、
それはそれで困るんですけどね…
入学式の挨拶を話す際の注意事項
保護者の方、おうちの方、と呼ぶ
すべての項目に共通することですが、お父さん・お母さんという呼称は使用しません。
来校している人がお父さんやお母さんとは限りませんし、ひとり親家庭の子どもがまったくいないクラスはあまり存在しないからです。
中には特定の家族に対してトラウマを抱えている場合もありますので、全体に対して話す場では「保護者の方」「おうちの人」といった言い方で統一しましょう。
しっかり意識しておかないと、慣れるまではつい「このプリントはお母さんに渡しておくように」なんて言ってしまうかもしれません。
これはホームルームや授業においても必要な配慮ですので、新任の先生は気をつけてくださいね。
もちろん一対一で個別に対応する場合は、相手の事情に合わせて「お母さん」や「おじいちゃん」「弟の◯◯くん」という呼称が登場します。
協力したい!という気持ちを込めて話す
決して保護者の方たちと敵対したいわけではないので、「あなたが考えていることは間違っています!」「あなたの意識を変えてあげます!」というような喧嘩腰や上から目線で進めてはなりません。
特に20代の教師が担任となると、若いというだけで不安に感じる保護者も少なくありません。
一歩間違えると「子どもも生んだことない若造のくせに生意気な!」と怒りを買ってしまうことも…。
若さを生かして「子どもたちと年齢が近い分、悩みをたくさん聞いてあげたい」「自分が学生だったころの経験を教えたい」という方向性で、そしてとにかく家庭と連携して一緒に育てたいという気持ちで話をしましょう。
謙虚にしすぎると信頼を得づらいし
あまりに自信家って感じで話すと
親しみがなくなるし、難しい…
おわりに
今回は、入学式の日に教室で伝えたい4つのことについてご紹介しました。
この入学式の日以降、信頼していろいろと相談をしてくれた保護者の方や、涙を流して頼ってくれた生徒がいたことは今でも鮮明に覚えています。
もちろん「全員すごく仲良しが無理」なのと同じ理由で、「うさぎ先生合わないな」「別の先生がいいな」と思った保護者も生徒もいたことでしょう。
それでも日々を過ごしていけたのは、居心地のよさや程よい距離感をある程度成すことが出来ていたからかなと自負しています。
20代のうさぎ先生が、経験が少ないなりに必死に向き合って考えた内容です。少しでもどなたかの参考になると嬉しいです。
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