こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
先日、とあるテレビの情報番組で、お子さんのためのお絵かき講座をしていました。
何気なく見ていたのですが・・・気になる内容があったので、思わず記事にしたくなりました。
困ったお絵かき講座
ステイホームの子ども向けに・・・ということで、情報番組の企画の一つっていう感じでした。
日常的にお絵かき講座をしている番組ではないようです。
空をばーっと全面塗って、そのあと上から人物を描いて、「自由に描いたらいいんですよーほらねー」みたいな感じでした。
コメンテーターの方は、「わあ素敵!」「うちの子にも描かせたいわ」なんて称賛していて。
わたしがこの講座のどこに引っかかったかというと・・・
アクリル絵の具を使わないと同じことはできないと、言わなかったところです。
小学校用で広く使われている水彩絵の具やポスターカラーで同じことをすれば・・・すなわち、空の上から人を描いたら。
十中八九、空がぐちゃぐちゃに溶けます。
肌の上から目を描いたら、口を描いたら・・・。
そうなんです。
アクリル絵の具なら、乾くと耐水性になるんです。
その知識なく・・・我が子に「あんたは絵心がないから」とか「プロは出来てたのに」とかつい言っちゃう保護者に対しても悲しいなぁと思うけど、講座と言うなら、指導者という立場なら説明してよ・・・とも思ってしまいます。
時間が限られた番組の中では厳しいのかもしれないけれど・・・テロップ入れて画材紹介をするとか・・・「耐水性じゃないと、ほら!ぼくでも空溶かしちゃうから〜」っていう実演込みにするとかさ・・・。
そんなふうに思ってしまって、ある意味すごく印象に残ったのです。
そこで今回の記事では、指導者側と保護者側とに視点を分けて道具を選ぶことについて考えていきます。
道具だけでもダメ
プロと同じ道具を
もちろん、道具だけでもダメで・・・。
この記事を書こうと思っていたときに、たまたまこのツイートを見て改めて思いましたが
「道具があればなんとかなる」と思っている保護者の方はすごく多かったです。
知らんがなってツイートするこの気持ち。
これはこれでめっっっっっっっちゃよく分かるのです・・・。・゚゚・(> x <)・゚゚・。
同じ道具使って同じことができるなら、みんな使うよね・・・。誰だってプロになれるよね・・・。
道具の選び方、を知るところから
絵に詳しくない人にとっては、その絵が果たして絵の具で描かれたのか、マーカーで描かれたのか・・・そもそもそこから画材の区別がついていないのだと思うんですよね・・・。
音楽で例えれば、ぱっと聞いた音が、笛なのか弦なのか?みたいな感じでしょうか。
メーカーや品質(ランク)の話以前の段階にいる、と気づけない人ほど、上のツイートのようにとりあえずプロと同じ画材を・・・ってなってしまうイメージです。
そういう意味では「弘法筆を選ばず」の逆で「下手の道具選び」「下手の道具調べ」なんていう言葉が生まれても仕方がないのかもしれませんが・・・。なんというショッキングな言葉・・・。
ピッコロでビオラの音を出すなんて無理ですから、そう言う意味では弘法だって筆を選ぶとは思います。
その筆ならではの書き味を楽しめるなら、豚毛のよさ、ナイロン毛のよさを味わえるなら、選ばなくてもいいですけどね。
ただ、書き味を楽しめるのは、あくまで弘法だからっていう・・・。
むしろ「下手こそ道具を選べ」かもしれません。
指導者側がすべきこと
「プロと同じ」と同様に、「とりあえず最高級ランクを買ったけど、うまくいかない!」も、あると思います。
最高ランクの道具が自分の目指すものと相性が良いとは限らない、ということがまだ知識として分かっていない段階ですね。
上のツイートの作家さんは今回、指導者という立場でもなんでもなく本当に不運だと思いますが・・・(;x;)
学校現場等における指導者側は、道具選びには段階があり、相手(生徒)がどの段階に困っているかで必要な情報が変わる、ということを含んだ上でしっかりと見極めて、情報を伝えるべきなんだというのが今回改めて実感したところです。
そういう意味では、テレビ番組での講座って対象をどこに持っていけば良いのかが難しいんだろうなぁ・・・とは思いました。
本人が気づければ・・・
道具だけでも、知識だけでも、苦労だけでも、思っているようにはなりにくいです。
一番いいのは、使ってみた道具が「なんか違う」って本人が気付くことかもしれません。道具との相性もありますし。
そして「他のものも試したい」となればもっといいと思いますが・・・。
美術を好きな子に対してであれば、本人が道具の違いに気付くまでしばらくは情報を控えることも一つだと思います。
自分で気づけた方が、
生徒も楽しいですから♪
便利な言葉で芽を摘む大人たち
うまくいかないときに・・・
思うようにいかなかった場合に、子どもたちの反応としては「なんか違うから、もういい!やらない!」だし、何よりも作品を見た周りの大人が「あなたには向いてない」って言っちゃうことが結構多いみたいで・・・悲しくて・・・。
コメンテーターさん、堂々と「うちの子、絵はダメで〜」とか、公の場でなんで言っちゃうんだろうなぁ。
それは謙遜と言う美徳だとは、わたしにはちょっと思えなくって。ご家庭内でフォローされていることを祈ります・・・
保護者の方に、使わないでほしい言葉
こちら↓の記事でも長々と書きましたが
保護者の方にとっては「自分にとって興味や知識がないものについて伸ばし方が分からない」のかもしれませんが、だからって「不器用」「絵心ない」という言葉を便利に、安易に、使わないでほしいなって・・・デリケートな言葉だよ?って、わたしは思います。
「不器用」だとか「絵心ない」とか、周りの大人から言われた言葉を意外と生徒たちは根に持っていますからね・・・。そしてこの言葉が次世代へとループして・・・また子どもを傷つけていく・・・(;x;)
もちろんそれを乗り越えてプロになっていく人はそれでいいと思うけど、別に全員がプロとして美術と生きていくわけではないので・・・。
「不器用」「絵心ない」という言葉の、芽を摘んで行ってしまう感が何とも悲しいのです。
直接的にプロにはならなくても、色使いとか空間認識力とか、興味を持って伸ばせば他の場面で生きる力はたくさんあるのになぁ・・・って。
「わたしどうせ、絵心ないから」って言って、混色を怖がっちゃったり・・・。
いわゆる絵が好きな子ほど失敗の経験数が多いのですが、本人はあんまり失敗だと思っていないので・・・その分どんどん経験して成長していったんだなぁと感じています。
どうすれば?
どうすれば《いい》かは状況次第でしょうが、褒める・・・まではいかなくても「別の絵の具にしてみよう」とか「次は一回乾かしてみよう」とか「色鉛筆も試してみたら」とか・・・提案でもいいのかなと考えます。
興味の芽が今は育っていないように見えても摘まずに残せれば、その子なりのタイミングでやがて芽が育つときを待つことができます。
おわりに・・・わたしにできること
さて、今回いろいろ考えましたが、もう実践できる立場にはいないので・・・こういう気持ち、どうしたらいいんだろう?って思ってしまいます(^ x ^;)
「こう提案してあげたい」「こう教えてあげたい」と思うこれは・・・学校現場から離れて時間が経つと、やがてはなくなっていく気持ちなのでしょうか。
「どうせ絵心ないもん・・・」って口にする生徒の表情がまだ焼きついているわたしには、しばらく時間がかかりそうです。
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