こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
さっそくですが、「部活動の地域移行」が注目されています。
この話題が夏頃に出てから度々記事にしようとは思っていたのですが、正直なところ地域によって状況に差がありすぎるし、本当に教員の負担減になるのか疑問がある…などといろいろと考えてしまって、なかなか書けずにいたんですよね。
いよいよ2023年度から検討・導入が具体的になる自治体も増えてきそうなので、ひとまず今の段階で挙げられているさまざまな疑問や問題点と、各地の自治体がどんな対応をしようとしているのかが書かれたニュースをまとめておくことにしました。
- 地域移行について分からないことがある
- 地域移行が抱える課題について知りたい
- 全国各地の自治体の取り組み状況を知りたい
こんな方におすすめの記事です。ぜひ最後までご覧くださいね。
部活動の地域移行って?
「部活動の地域移行」は2022年6月にスポーツ庁での有識者会議で提言された、おもに公立中学校における休日の部活動を外部に移行しようとする改革の1つです。
当初は2023年度から3年間が「改革推進期間」とされていましたが、3年間の移行達成は現実的に難しいという意見が相次いだことを受け、スポーツ庁と文化庁が2022年12月に公表した新たなガイドラインでは「可能な限り早期の実現を目指す」という余地を残した表現に変更されています。
公式学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(令和4年12月):スポーツ庁
従来のクラブ活動は競技経験のない教師であっても顧問(指導)を担当せざるを得なかったり、休日もクラブ指導が求められたりするなど 、教師にとって大きな業務負担だったんですよね。
そういった教員の過重労働対策に加えて少子化による参加人数減少への対策でもあると言われている「地域移行」ですが、さまざまな課題があると指摘されています。
部活動の地域移行への疑問や抱える課題
財源は?保護者の費用負担が増える?
言葉を選ばずに言えば、「今までタダ働きで教員がやっていた休日のクラブ指導」を外部に委託するわけですよね。
つまり、新たに地域移行を担当してくれる指導者に対する人件費や施設利用費などが増えるわけです。
わたしは私学勤務だったので、
休日出勤の部活動や合宿引率には
手当が支払われていました。
公立だとお金が出ないんですよね…
スポーツ庁と文化庁は概算要求で118億円を計上していたそうですが、半分にも満たない28億円になってしまったのだとか。
そういった事情もあり、前述の3年間の移行達成は現実的に難しいという話になったようですね><
地域のスポーツクラブ等への謝礼のようないわゆる人件費にあたるものの全てが保護者の負担になるわけではないとはいえ、通うための交通費といった従来の部活動にはなかった新たな費用負担も考えられます。
習い事と扱いがそう変わらなくなるのであれば、もはや「学校に属する部活動」という形が適切なのか?という話にもなってきます。
運動部だけ?文化部も対象なの?
当初は運動部を主眼として話が進んでいたようですが、2022年8月の文化庁有識者会議によって、吹奏楽・合唱・美術・工芸・演劇・自然科学・パソコン等のいわゆる文化部の活動についても地域移行の対象とする提言がまとめられました。
天文部がプラネタリウム、写真部が屋外撮影会といった感じで引率して文化施設や公園などに赴く機会もありますし、運動部ほど定期的ではなくとも休日の部活動が実施されている文化系部活動って多いんですよね。
美術部や調理部だと刃物や火を扱う関係で、大人による安全管理も欠かせません。
ちなみに2021・22年度に実施された人材・活動場所の確保等の課題の解決を目指す実践研究においては、8割以上が吹奏楽部だったそうです。
公式文化部活動の地域移行について(令和4年7月)|文化庁
指導者の確保は可能?誰でもなれるの?
地域の実情に応じて、実施主体として多様なスポーツ団体等(総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団、クラブチーム、プロスポーツチーム、民間事業者、フィットネスクラブ、大学等)や学校関係の組織・団体(地域学校協働本部や保護者会等)、地域の文化施設や文化芸術団体・芸術系教育機関等が中心となって作る地域文化倶楽部などが想定されているようです。
個人というよりは組織や団体が地域移行の対象として考えられているんですね。
一方で、学校教育法の一部改正により2017年4月1日から制度化された「部活動指導員」は個人の人材ということになります。
報道を見る限りはこのあたりの住み分けがまだあいまいなのかなと感じていますが、部活動指導員の制度だけでは現在抱えている問題が解決していかないという判断なのかな?とも思っています。
いろんな事件やハラスメントがある時代ですから、組織や団体に所属している人の方が人材への安心感があるという事情もありそうです。
地域によってスポーツクラブがないとか
競技に限りがあるとか、個人の人材に
頼らざるを得ない場合も多そうですが…
どうやって人材確保していくんだろう?
教員不足によって特別免許や臨時免許を駆使してなんとか授業をやっている(つまり専門知識を持つ先生ではない)学校も少なくないと聞きますし、そういう地域こそ部活動地域移行が有効だと考えられますが、そういった地域だからこそきっと受け皿となる指導者の人材も不足しているんだろうな…と思ってしまいます><
部活動をやりたいタイプの先生にとってはどうなの?
休日の引率がなくなることで業務量としては楽になる場合もありそうですが、部活動の指導が教員になる志望動機だったという先生も少なくないと思います。
部活=青春…。そういった先生にとっては、悩ましい状態かもしれませんね。
現在のところは「高校や私学は実情に応じて取り組むことが望ましい」とされているので、部活動指導を理由に私学教員の採用を目指す先生もいらっしゃることでしょう。
ただ、地域移行はあくまでも休日の指導のみということですし、指導員と生徒のトラブルがあれば結局のところ顧問の教員が駆り出されるのでしょうから、完全移行しない限りはそれほど部活から離れることにはならないような気もします。
部活動の指導に力を入れたいなら、
あえて教諭から非常勤講師になって
部活動指導員にも登録する!
なんてケースも出てくる…かも?
事故やトラブルの際の関わりの線引きは?個人情報はどう伝えるのか?
万が一の事故が起こった場合や部員同士あるいは指導員と部員のトラブルが発生したときに、指導員側はどこまで深く関わり責任を持つのか?という問題もあります。
個人的には、これが地域移行の一番の懸念点かなと思いました。
指導員としては週に一回程度、部活動での姿しか見ていないわけですから、一歩踏み込んだ指導というのはなかなか加減が難しそうですよね。
それに、生徒が抱える家庭の事情や持病といったむやみに広げたくないけれど安全管理に関わる個人情報を、どこまで指導員に伝えるかというところも悩ましいです。
「○○さんは今週痴漢被害に遭っていて、男性から声をかけられると大きく恐怖を感じます」
「△△さんのご家庭は離婚調停中で、父親が連れ去りに来るかもしれません」
「□□さんは本人に告知していない疾患があって、頭にボールが当たったら必ず受診が必要です」
たとえばこういったことが考えられますが、デリケートな内容をどこまで指導員に伝えるか?っていう…
そういうことを考えると結局のところ完全移行は難しくて、なんだかんだ教員が入っていくことになる(業務軽減にはあまりならない)ような気がしてしまうんですよね;;
新しい部活を作りにくくなる?
学校によりさまざまですが、「部員を五人以上集めて顧問がいれば部活を作れる」などの新部活設立ルールがありますよね。
今後は部活動指導員の確保が可能かどうかが部活設立のための新たな関門となり、確保不可であれば休日の部活動は禁止になるなど…生徒目線で考えると窮屈になる可能性があります。
わたしは出身校も勤務校も私学の中高一貫校で、部活動の種類はかなり多かったんですよね。
教員のみならず児童・生徒たちにとっても、「部活を全力でやりたいなら私学へ」という風潮になっていくのかもしれません。
部活動地域移行の事例・各自治体のさまざまな対応
学校や地域によってさまざまな対応が報道されていますので、5つの例をご紹介していきますね。
教員の負担減で好評、民間委託は費用面に課題が残る(神戸市)
神戸市のモデル校5校では、スポーツスクールを運営していて全国で部活動支援の実績がある民間企業の「リーフラス」との契約で地域移行が試行されました。
欠席連絡や事故対応を含めた休日活動の全てを任せたということで、市教委が行ったアンケートによると全5校の顧問が負担について「大幅に軽減」「軽減」と回答したそうです。
神戸市では他にも、中学校に希望の運動部がない生徒が参加する「拠点校部活動」に別の民間指導者を入れるなど、地域の事情をふまえた最善の方法を探っています。
今回は国の予算167万5千円で公募されたそうですが、モデル事業終了後にも民間委託を採用するとなると、費用を自治体や家庭で負担する必要になることが課題として挙げられています。
自治体の懐事情によって
地域移行先が左右される場合も
ありそうですね…
保護者の不安は活動場所までの送迎負担(沖縄県)
沖縄県でおこなわれた保護者へのアンケートでは、地域移行後は地域団体の活動場所まで移動(送迎)しなければならないことへの不安が多く寄せられていました。
地域に移行しても学校の敷地内で活動すればいいのになぁと思ってしまいますが、複数の学校が合同で指導を受ける場合もあることなどから、なかなかそうもいかないようです。
公共交通機関の選択肢が少なく保護者の送迎が必須となるような地域では特に、送迎不可を理由に休日の部活動には参加できない生徒が出てくるかもしれません。
ただ、この地域移行は少子化に伴う部活動への参加人数減により「(1つの学校では)部活動を維持できなくなること」への対策でもあるので、いざそういった現実がやってくる前に考えておくべきことなんだなということは感じます。
土日に仕事があるご家庭も
もちろんあるでしょうし、
送迎必須となると習い事と
変わらない感じがします
地域に委ねず退職教員の活用を検討(仙台市)
仙台市総合教育会議では、退職教員の活用を求める意見が出されたそうです。
当該地域にスポーツクラブが存在する競技ばかりではありませんし、指導者が「教員ではない」ところに抵抗感を持つ生徒・保護者もいるでしょうから、一つの選択肢になりそうです。
ただ、この地域移行は基本的にはスポーツ団体等や学校関係の組織・団体が想定されているようなので、退職した教員個人との契約になるのかな?というところに疑問を持ちました。
退職した教員で新たな団体を作るか、部活動指導員として登録してもらう想定なのかもしれませんね。
定年退職の先生ばかりになると
安全管理の面では少々不安が
残る気はしますが…
大学生を補助指導員で派遣(岡山県)
岡山県ではIPU・環太平洋大学の体育学科や運動部に所属する学生が中学校の運動部の補助指導員として派遣されたそうです。
この記事だけでは詳しいことが分かりませんが、教職を目指している学生ばかりというわけでもなさそうですし、自分自身の運動能力と他人に教える・能力はまた別の能力になるので、子どもたちの状況に対する理解力・対応力にはかなりブレがありそうだなというのが率直な感想です。学生さんですからね。
わたしの勤務校(私立一貫校)でも大学生がクラブのコーチとして指導しに来ることはありましたが、人柄や身元がよく分かっている(そして学生側も校風をよく理解している)卒業生に限られていたという記憶があります。
民間企業にも大学生が
所属しているみたいですが、
個人情報の管理が気になります
休日だけではなく完全移行を目指す(東京都)
東京都は、休日のみではなく部活動を丸ごと移行、つまり完全移行を目指すことを発表しています。
教員が引き続き指導を望む場合は、学校の仕事と切り離して運営団体と「兼業」という形をとるそうなので、実現すればかなり画期的ですよね。(その指導の分のお金は支払われる…んですよね?)
ただ、地域のスポーツクラブや元アスリートといった受け皿として頼れる人材が豊富な東京だから出来る・東京にしか出来ない取り組みだなとは感じました。
関東に住む大学生は、来年度以降の
教員採用試験でどの自治体を選ぶか
悩んでいそうですね…
まとめ
2023年度から導入が具体的になってくる「部活動の地域移行」について、2023年2月現在挙げられている疑問や問題点と、5つの自治体のさまざまな取り組みをご紹介しました。
ニュースをいろいろと見るにつけ、どの自治体も困惑しているんだな…ということがすごく伝わってきて、複雑な気持ちです;;
だからといって教員の過重労働対策および少子化による参加人数減少対策については放っておくことができない問題ですので、地域の現状に合わせて3年かけていろいろと検討・研究されていくことでしょう。
「部活動の地域移行」について知りたいことがある方にとって、この記事が少しでも参考になると嬉しいです。
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