こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
2007(H19)年6月の改正教育職員免許法の成立により、2009(H21)年4月1日から教員免許更新制が導入されてから10年以上が経ちますが、何かとややこしい制度ですよね。
そんな教員免許更新制が廃止に向かって検討されていることが2021(R3)年7月10日に報道され、その翌月の8月23日に、文科省から正式に廃止の方針が発表されました。
このニュースはTwitterでトレンド入りするほど話題に上り、「教員免許更新制が廃止されたら具体的にどうなるのか?」という疑問や廃止への意見、不満を数多く見かけることとなりました。
そこで今回は、見かけた意見の中から特に気になった内容ついて6つの項目に分けてまとめてみました。
教員免許更新制の今後が気になる方やアンテナを張っておきたい方は、ぜひ最後までご覧くださいね。
「教員免許更新制」の目的と廃止の理由
知識と技能のアップデートが目的
2007(H19)年6月の改正教育職員免許法の成立により、2009(H21)年4月1日から教員免許更新制が導入されました。
文部科学省HPの教員免許更新制の概要によると、目的はこのように定義されています。
教員免許更新制は、その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すものです。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/koushin/001/1316077.htm
一部には教員免許更新制の目的を不適格教員の排除だと誤解している人もいるようですが、そうではないんですよね。旧態依然とした教員にならないようにする、いわば知識や技能のアップデートが目的であると言えます。
「問題行動に対する指導」ではなく
教員免許状を所持し続けるために
10年ごとに全員が受ける
いわば必須の講習なんですよね。
更新制が廃止される4つの理由
教員免許更新制が廃止の方向になった理由は、大きく4つあると考えます。
①更新にかかる費用や受講時間の負担が大きい
②有意義な講習ばかりではない
③更新制度の仕組みそのものが複雑すぎる
④深刻な人手不足に陥る可能性
詳しくは別の記事で解説していますが、すごくざっくり言うといろんな方面において歪みが生じてしまっていたっていうことですね。
関連教員免許更新制が廃止になる理由
さて、更新制の目的と廃止方針の理由が確認出来ました。
ここからはTwitterで見つけたさまざまな立場からの疑問や意見をもとに、気になる「どうなる」について具体的に見ていきますね。
すでに失効している免許に関する3つの疑問
既に授与された教員免許の有効期間や、失効済みの免許はどうなる?
いわゆる「復活」するのかということですね。
この疑問が最も多く書かれていたように思います。
更新制度そのものの仕組みがなかなか複雑なこともあり、更新を忘れてしまった人や病気や定年を理由に更新を諦めてしまった人が増えているという声はよく聞かれます。
失効した免許を持つ人やその家族が、これまでに失効した人の免許はどうなるのか?という疑問を持つのも納得ですね。
可能性としては、次の3つのいずれかになるかとわたしは予想しています。
- これまでに失効した免許も、申請さえすれば復活になる
- これまでに失効した免許を復活させるための、特別な講習が必要になる
- これまでに失効した免許は失効のままで、法改正後に新たに取得される免許のみが更新不要になる
申請も講習も経ることなく自動的に復活という形は考えにくいかな?と思います。
わたしの体感では、法改正後に
「何らかの形で免許は復活する」と
考える人が多いように思いました。
ちなみに失効と言いつつ実際には休眠状態に近いというか、大学等で取得した単位が無効になるわけではありません。
関連教員免許が失効したらどうなるの?
また、履歴書等における所有する資格欄への記載については「(更新講習未受講)」等を併記するのであれば資格の記載自体は可能とされています。
公式【7】失効・再授与についてQ&A:文部科学省
更新制においては新免許・旧免許という枠組みもややこしかったので、これを機に整理されるといいですね。
うっかり失効で失職した免許も復活できる?
現職教員の場合は失効すると職を失うことに直結してしまうんですよね。
それにもかかわらず、毎年のように更新修了申請忘れによるいわゆるうっかり失効の報道が出るというのは残念なことなのですが……。
うっかり失効により「職を失った経験を持つ人」からしてみれば、復活出来るようになるのはずるい・不公平感がある、なんていう意見もあるようです。
一方でうっかり失効するような人は教壇に立つ資格なしという厳しい意見もありました。
過去の失効理由によって復活させていい免許とそうでない免許を区別した方がいいという考え方もありますね。(仮に復活するとしたら、ですが)
わいせつ事件を起こした教員の免許も復活できる?
教員免許更新制の目的を不適格教員の排除だと誤解している人からの意見の中に、「わいせつ事件を起こした人の免許が、更新不要になるの?」といった内容のものがありました。
そもそも更新制は免許状所持者全員に関わることですから、ちょっと違うんですよね。
児童生徒性暴力等、いわゆるわいせつ行為を理由に失効した免許については2021(R3)年5月の《教育職員による児童生徒性暴力防止法》の成立で、教育職員免許法に特例を設けて都道府県の教育委員会が免許再交付の可否を判断できるようになりました。
ちなみにこの防止法が成立する前は、3年経てば再交付可能でした。
今後は免許失効者の氏名や処分理由を登録する全国共通のデータベースを整えるとのことですが、どの程度のわいせつ行為であれば再交付する・しないという判断が、自治体ごとに変わってしまう(ブレが生じる)のではという懸念は聞かれます。
今回の更新制廃止とあわせて、運用方法がしっかり整うことを願うばかりです。
世間から求められているのは
知識のアップデートよりも
不適格教員の排除っていう
ことなのかもしれませんね…
学生や大学等への影響に関する3つの意見
更新制の資格だから教職の単位を履修しなかったのに…
大学等で学んでいる現役の学生さんからの、「もっと早く言ってよ!!」という意見です。
わたし自身が学生だった頃にも、「失効してしまう資格のために時間やお金を使いたくない」という理由で教職課程を途中断念した同級生はたくさんいました。
現在3年生以上であればある程度将来の方向性を決めた後でしょうが、1・2年生にとってはまだ悩める時期であることもあり、「更新制が廃止されると分かっていれば履修登録したのに」と不満に思うのも頷けますね。
今回の更新制廃止には、教員になりたいという強い気持ちがある学生さん以外の「とりあえず教職取っとこう」という層、いわゆる潜在教員やペーパー教員と呼ばれることになる層の免許所持者を増やしたい(人手不足を解消したい)という意図が含まれていると言われています。
科目等履修生という制度もありますしリカバリーできないわけではないのでしょうが、「とりあえず教職取っとこう」の層が、下級生に混ざってわざわざ必要な単位を履修するかというと…難しいと思います。2022年度以降の入学生に期待、というところでしょうか。
講習廃止で、仕事がなくなる人がいる
大学や自治体によって大きく異なるという前提がありますが、教員免許状更新講習の講師となる担当者に対して1講習あたり数万円という手当が支払われている場合があるようです。
受講者数に応じて、手当が増えることもあるのだとか。
普段の業務や学生の授業をしながら準備や採点をするわけですから「更新講習という業務が負担だったから助かる」という人も多そうですが、中には「更新講習分の収入がなくなるのは困る」という人も少なからずいらっしゃるんですね。
講師だけではなく、更新に携わってきた事務職員さんにも少なからず影響があるかもしれません。
新しい制度における講習や研修は、潜在教員やペーパー教員も受ける?
更新制廃止方針発表の際に、教員が資質能力の向上のために学び続けられる新しい制度の構築を目指すと説明されていました。
具体的な話はまだ表に出ていない様子ですが、さまざまな可能性が浮かびますね。
- 何を目的とした講習内容になる?
- 大学等を訪問しての講習が必須になる?
- 年齢や免許所持年数によって講習内容が変わる?
- 教科や学級担任の有無によって講習内容が変わる?
- 受講対象者は現職教員のみ?潜在教員やペーパー教員は?
もし仮に潜在教員・ペーパー教員に対しても受講を強いるとすれば、現在の更新制とあまり変わらないどころか、負担が増えるだけのような気もします。
とはいえ、数十年前に取得した免許でいきなり教壇に…というのも教員の資質向上という観点からはチグハグが生じますから、教壇に立つことが決まった時点で要受講になる可能性はありますね。
「とりあえず教職取るか」という層を
文科省がどう捉えているか?ですね。
教職に就くことのハードルを、
上げたいのか下げたいのか…??
少し話がそれますが、そもそも教員が日々受講する講習や研修については、公立勤務か私立勤務かどうかで頻度がかなり違うと思っています。
わたしは私立の中学校・高等学校にしか勤務したことがありませんが、公立校に勤めている同年代の先生の話を聞く限りでは、公立校の方が学校同士の交流や意見交換の場も多く、年齢に応じたものなどかなり頻繁に教員講習や研修を実施しているイメージを持っているんですよね。
私立校の場合も研修がないわけではありませんが、入試広報関連の出張や学校の特色にまつわる業務により多くの時間を割かざるを得ないってことなのかもしれません。(自治体や学校によって大きく異なるとは思いますが)
勤務校がどこであってもある程度同一の受講を求めるという観点では、更新制にも一定の意味があったのだとわたしは受け止めています。
まとめ
今回は、教員免許更新制が廃止されたら具体的に「どうなる」のかに関する疑問や意見について、6つの項目に分けてまとめてみました。
立場によっては不公平感を持つ人がいる様子でしたが、色々と多くの問題を抱えている制度でしたので、更新制の廃止そのものに対する不満や反対意見はほとんど見ることがありませんでした。
今のところは文科省から具体的な「こうなる」という情報はまだ公表されていませんが、気になる点については常にアンテナを張っておきたいですね。
なお、この記事は2021年10月に作成しています。現段階ではあくまでも、廃止のための法改正の準備に入った状態です。
最新の情報は文部科学省のHP等にてご確認くださいね。
公式教員免許更新制:文部科学省
追記:2022年5月11日に関連法案が可決となり、教員免許更新制が正式に廃止されました。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
このブログでは、他にも教員免許に関する記事を書いています。
合わせてご覧いただけると嬉しいです。
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