こんにちは。
元美術教師のうさぎ先生です。
美術の授業におけるユニバーサルデザインの例示としては、身体障害を抱える人や高齢者を対象にした生活必需品がピックアップされることが多いです。シャンプーボトルのギザギザなどですね。
教科書や資料集に載っている例って簡潔で明快で分かりやすいのですが、生徒にとってはあまり身近にはないものだったり少し古いものだったりするんですよね。
また、玩具やゲームといった生活用品以外に施された工夫が取り上げられることは少ないです。
「もっと生徒にとって身近で、直感的に分かりやすい例示がしたい」と思ったわたしが、身の回りの製品に触れる中で発見したものやニュースを見ていて知ったものを幅広くご紹介します。
- ユニバーサルデザインについて知りたい
- ユニバーサルデザインを美術の授業で扱いたい
- 教科書に載っていないものを例示したい
- 生徒に身近なものを例示したい
- 大手サイトが扱っていないような珍しいものを知りたい
こんな先生方におすすめですし、ユニバーサルデザインに関して調べ学習をしている生徒さんにも役立つ内容になっているかと思います。ぜひ最後までご覧くださいね。
ユニバーサルデザインとは
いつから始まった?
ユニバーサルデザインという概念は、アメリカのノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンターのロナルド・メイス博士により、1985年に提唱されました。
universal designの頭文字をとってUDと表記されることもあります。
ユニバーサルデザインの7原則
ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンターによると、ユニバーサルデザインの7原則は以下の通りに定められています。
- どんな人でも公平に使えること
- 使う上での柔軟性・自由度があること
- 使い方が単純で分かりやすいこと
- 必要な情報が明確にすぐに分かること
- 安全でミスや危険につながらないこと
- 身体への過度な負担を必要としないこと
- 使いやすい広さや大きさがあること
SDGsに通ずるところも
ユニバーサルデザインの「出来ない人を無くす」「多くの人が使えるようにする」という考え方は、近年注目されているSDGsの「誰も取り残さない」「人々に保健と福祉を」「質の高い教育をみんなに」に近い概念であると言われています。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
ユニバーサルデザインって、少し前までは身体障害を抱える人や高齢者のための製品として紹介されることが多かったと思います。
美術の教科書や資料集で掲載されている製品としても、シャンプーボトルのギザギザや軽い力で切れるはさみなどが例示されています。
限られた授業時間の中では、その方が明快で分かりやすいというのは確かなことです。
それゆえなのか「ユニバーサルデザイン=障害者のための特別なもの」と誤解している人も少なからずいらっしゃるようですが、おそらくバリアフリーと混同してしまっているんじゃないかなと思います。
- バリアフリー…障害者・高齢者を主な対象として、生活の支障となるものを除去していくことを目的とした考え方
- ユニバーサルデザイン…年齢や性別、文化や国籍、能力などの違いに関わらず多くの人が使えることを目的としたデザイン
バリアフリーなデザインは、ユニバーサルデザインの中に含まれているとも言えるんですよね。
また、バリア(障壁)を後から取り除こうというバリアフリーの考え方と比べると、ユニバーサルデザインははじめからすべての人に使いやすいようにデザインしようと考えている点でも違いがあります。
食品系のユニバーサルデザイン
マヨネーズ(キユーピー)
実はキユーピーはサステナビリティ目標の一つとして独自にユニバーサルデザインの10この原則を掲げるほど、積極的に取り組んでいる企業なんです。
キユーピーの公式HPを見ると、「障害者のため(だけ)に作られた特別なデザイン」ではなく「さまざまな人にとって使いやすいデザイン」こそがユニバーサルデザインであることがよく分かります。
一見すると何気ないもののように思えるマヨネーズやドレッシングにも、製品のキャップやキャップを包むフィルム、容器のくぼみに至るまで、紹介しきれないほどの細かな工夫・配慮が随所に散りばめられています。
最近ではパッケージや容器のみならず食品そのものの食べやすさに配慮した、ユニバーサルデザインフード(UDF)への取り組みも話題です。
シスコーン(日清シスコ)
幼い子ども一人でも食事を用意しやすくなるように工夫された、朝食向けのシリアルです。
パッケージにそそぎやすい持ち手マークが印刷されています。
説明の通りに袋を持つと、右利きの人は袋を左に傾けて、左利きの人は右に傾けてスムーズにフレークを皿に注ぐことができるというデザインです。
右利き・左利きの両方のパターンを掲載して中身がこぼれにくい持ち方に誘導している点、そして文字が読めない年齢でもイラストだけで理解しやすい点が、ユニバーサルデザインであると言えます。
かむかむレモン(三菱食品)
かむかむシリーズは、梅やレモンなどの味が発売されているチューイングキャンデーです。
パッケージに「みんなの文字」というUDフォントが使用されています。
UDフォントは字の中のスキマの量や線の位置が絶妙に調整されていて、誤読を防ぐことができる形を目指して作られていますよ。
・小さくても見やすい
https://minmoji.ucda.jpより引用
・密集していても読みやすい
・劣化しても誤読が少ない
・低解像度に強い
・英数字の見分けがつきやすい
・老眼、白内障の方も読みやすい
視力や環境状態の劣化に対して見やすさを確保することを目指して開発され、ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会から認証を取得している書体です。
説明書などの文字を小さく使いがちなものや高齢者向けの印刷物、誤読を防ぎたい施設の案内サインなど、あらゆるところでUDフォントの使用が広がっています。
公式UCDAフォント みんなの文字
文房具系のユニバーサルデザイン
ソフトカラーファイル(コクヨ)
よくあるこの手のフラットファイルって、パッと見ただけでは上下が分かりづらいんですよね。
綴じる方向が分からなくなってしまったり、名前を逆さに書いてしまったりする生徒を何度も何度も見かけました。
そんなフラットファイルの中で使いやすさを感じるのが、このソフトカラーファイルです。
コクヨの商品説明にはワンタッチ開閉が可能なとじ具を採用している点やとじ穴が大きめである点がユニバーサルデザインだと書かれていますが、わたしは何よりも上が濃いから上下が分かりやすい2穴ファイルである点がこのソフトカラーファイルの最大の魅力だと思っています。
カラーバリエーションが豊富なので教科ごとの色分けがしやすいですし、わたしはこのファイルを自身が高校生の頃から愛用していて、生徒にもよくおすすめしていました。
「ちょっとした工夫でみんなが使いやすくなる」の好例として紹介しやすい製品です。
mahoraノート(大栗紙工)
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった発達障害を持つ人にとって、一般的なノートでは「白い紙だと光の反射がまぶしい」「薄い罫線だと途中で書いている行がわからなくなる」「余分な情報があると集中しづらい」という悩みが生じやすいと言われています。
その結果ノートを使わなくなってしまい、成績が下がって学習意欲が低下して…という悪循環もままあるのだとか。
発達障害による特性や悩みは個人差が大きいものではありますが、この「まぶしい」「罫線が見えない」「集中しづらい」の3点の悩みを複数の当事者と協力して解消したことで、mahora(まほら)ノートは誰にとっても使いやすいノートとして誕生したんですね。
mahoraノートは発達障害の人向け!という広告を打ち出していたわけでもなく、その使いやすさが自然と社会に溶け込んでいったところ、そして企画の初期段階から当事者を巻き込んで製品開発をしたところが好評を得ています。
授業で扱う際の注意点としては、「発達障害」という名称を直接的に授業で使うことが適しているかどうかは、学校の指導状況や雰囲気に大きく左右されるということです。
わたしなら「ノートをまぶしく思ったり、罫線が見えにくいと思う人にも使いやすいように開発されたよ」にとどめると思います。
肌色くれよん(クレヨラ)
アメリカの画材大手・クレヨラ社が発売したカラーズ・オブ・ザ・ワールドという商品で、「肌色」だけで24色が入ったセットであることが特徴です。
人種差別に対する問題意識から、「肌色」という呼称は世界的に使用が控えられつつあります。
実際に日本では2000年ごろから、クレヨンや色鉛筆の色味に対して「肌色」と呼ばずに「うすだいだい」「ペールオレンジ」などと呼ぶことが定着しつつありますよね。
参考はだいろがなくなった|よくあるご質問|三菱鉛筆株式会社
この製品は逆転の発想というか、あえて「肌色」をたくさん作ることで、さまざまな肌の色を表現することに対応したユニバーサルデザインであると言えます。
肌の色はたくさんあって当然だよねっていう雰囲気は、多様性理解に繋がりますね。
おもちゃとゲームのユニバーサルデザイン
一体オセロ(メガハウス)
この「一体オセロ」はそれぞれのマスに石が内蔵されており、石を回転させて遊ぶ仕組みになっています。
緑と白と黒の3面になっているんですね。
そして色だけでなく表面の凸凹に触れることでも石の判別が可能になっていることから触覚でも遊べるように工夫されており、視覚障害があっても楽しめるデザインになっています。
また、石が内蔵されていて外れないという独特の特徴は、オセロ石の紛失の心配がないとも言えます。
そういう意味では、片付けが苦手なADHD(不注意)の特性を持つ人に優しいデザインでもあるのです。
実は発売元のメガハウスは、立体パズルのルービックキューブで有名なメーカーです。
回転させるというアイデアは、ここから来ているのかもしれませんね。
ルービックキューブ(メガハウス)
そしてそのルービックキューブ、実はUDバージョンのものが新発売されています。
色の違いだけではなく凸凹の違いがついているので、触覚でも遊べるんですね。
各面はシールではなくプレート埋め込みの形状なので耐久性もよく、ドットや丸、四角など直感的にわかりやすい凸凹モチーフになっています。
このルービックキューブは「日本おもちゃ大賞2021 共遊玩具部門 大賞」を受賞しているのですが、この「共遊玩具」という考え方、最近のおもちゃ業界ではかなり浸透してきていますよね。
そもそもの始まりは、タカラトミーの創業者・富山栄市郎氏による「誰もが楽しめるおもちゃづくり」という意思でした。
「障害者向けおもちゃ」ではなく「障害のある子もない子も一緒に遊べるおもちゃ」であるところに共遊のポイントがあり、これこそまさにおもちゃ界のユニバーサルデザインの先駆けだと言えます。
「共遊玩具」で調べてみると、
さまざまな事例が見つかりますよ!
ぷよぷよ(セガ)
『ぷよぷよ』は、赤や黄色などのカラフルな「ぷよ」を操作して遊ぶパズルゲームです。
色でしかぷよの違いが判別できないことから、1991年のリリース当時より、いわゆる“色弱”、“色盲”と呼ばれていた色覚異常者にとって通常プレイが極めて困難なゲームとしても有名でした。
いわばユニバーサルデザインとは真逆の存在だったんですよね。
そんな『ぷよぷよ』に、2020年9月の大型無料アップデートで色の強さ調整や形状での判別を可能にする「色ちょうせい」機能が導入されたのです。
『ぷよぷよeスポーツ』、『ぷよぷよテトリス2』が導入した「色ちょうせい」機能は、CUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)の監修を受ける形で開発が進められました。
「1型2色覚」「2型2色覚」「3型2色覚」の3色覚に対応し、色の強さの調整機能や形状そのものを追加することで、色覚多様性に対応した色覚異常者に優しいゲームに生まれ変わったのです。
最近では『ぷよぷよプログラミング』というプログラミング教材も登場し、ぷよぷよは教育現場からも再注目されていますよ。
Minecraft(Mojang)
『Minecraft(マインクラフト)』は、サバイバル生活を楽しんだり自由にブロックを配置し建築などを作ったりするゲームです。2009年に発売されました。
『マイクラ』は色や形が異なるブロックを積み上げて自由に造形する遊びが醍醐味であるゲームなのですが、この「鉱石」というブロックについては従来は色のみが異なっていて、形(テクスチャ・模様)は同じだったんですよね。
つまりプレイヤーの色覚によっては、ブロックの判別はほぼ不可能であったということになります。
2021年6月の大型無料アップデートで「金」「ラピスラズリ」など鉱石ブロックの種類ごとに、異なるテクスチャが割り当てられたことで、色覚以外でも区別がつくようになったんですね。
こちらも『ぷよぷよ』同様、プログラミング教材としての注目度が高いゲームです。
学校や学習にまつわる現場と関わりが大きいゲームであるからこそ、「遊びたい人だけが遊べばいい」という状態とは異なるという事情もあり、色覚多様性への対応には前向きに取り組まれているようです。
新紙幣にもユニバーサルデザインが
渋沢栄一の新一万円札紙幣
3種類の新紙幣が、2024年より流通開始予定になっています。
紙幣は多くの人が使う身近なものであることから注目度が高く、デザインに対して言及する人、端的に言えば「ダサい」などと不満を口にする人が多かったんですよね。
そんな新紙幣がいよいよ流通が近づいてきた今、視力が弱くなっている人や目の治療をしている人が「現在の一万円札よりも判別しやすいと感じた」と話すなど、デザインの意味や効果についてポジティブな声が聞こえるようになってきたのです。
わたしは知らなかったのですが、実は2019年の発行発表当初に、新紙幣がユニバーサルデザインを採用していることは財務省からすでに発表されていました。
公式新しい日本銀行券及び五百円貨幣を発行します : 財務省
独特の大きな10000の文字も、位置の統一感がない透かしも、意味があったんですね。
いわゆる「ダサさ」とユニバーサルなデザインが相反するものというわけではないというところは、勘違いしてはならない部分ではありますが…。
おわりに
今回の記事では、美術の授業で使えるユニバーサルデザインな製品についてご紹介しました。
年齢や性別、文化や国籍、能力などの違いに関わらず多くの人が使えることを目的としたデザインは、身のまわりにたくさん存在していることに改めて気付いていただけたかと思います。
一見するとさりげなく思える小さな工夫もありますが、その工夫が生み出す大きな効果を知ると、嬉しくなりますよね!
なお、今回の記事では美術教育や美術の教材としてのユニバーサルデザインを取り上げていきましたが、教室の調光や板書の配置、分かりやすい発問方法や宿題の伝え方など、教育現場におけるユニバーサルデザインの視点を取り入れた授業づくりや教室づくりが発達障害への支援方法になるとして近年改めて注目されていることも申し添えておきます。
人的環境のユニバーサルデザインとも呼ばれていますね。
ユニバーサルデザインは、
製品だけにとどまらないんですね
製品と環境が合わさることで、学校がどんな生徒にも居心地のよい場所になっていくといいですよね。
ユニバーサルデザインに興味がある人にとって、この記事が少しでも参考になると嬉しいです。
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